最後の記事では、シンポジウムの最後に行われたパネルディスカッションについてご紹介します(第一回、第二回の記事も合わせてご覧ください)。
「日本のファブは世界とともに何ができるのか」というテーマで、経済産業省製造の田中哲也氏、総務省情報通信国際戦略局の中村裕治氏、国際協力機構研究所顧問の荒川博人氏と、実行委員長の田中氏・ニール氏を交えてパネルディスカッションが行われました。
日本のモノづくりの概況について
まず始めに、パネラーの方々が在籍する組織から見た日本のモノづくりの概況が語られました。
経済産業省の田中氏は、日本の製造業がGDPに占める割合や、雇用状況のデータを示し、日本の経済構造の中心が製造業からサービス業へ移行しつつあることについて言及しました。しかしながら、国際収支のうち、輸出物の96%は製造業による製品が占めており、また、日本企業の約7割が海外での生産拠点を持っていることから、日本は今後付加価値の高いモノづくりを行う必要があると述べました。
次に、総務省の中村氏は、日本はインターネットの普及整備は進んでいるものの、利活用に関しては他国に比較すると遅れていると述べました。今後は、2020年までに世界最先端のIT国家を目指すべく、各種センサー・クラウド・ビックデータなどの利用を中心に、データのオープン化・データベースの構築を進めていく予定であると語りました。
最後に、国際協力機構の荒川氏は、途上国が抱える自然災害や教育などの課題に対してファブラボは解決策と成りうるだろう、との期待を寄せました。また、単にモノを作るだけでなく、仕事やインフラをファブラボを通じて生み出すことによって、貧困削減にも貢献しうるだろうと語りました。青年海外協力隊の活動の一部として、ボホール島にファブラボを設立した事例にも触れました。
その後、三者の発言を受けてニール氏は、日本はボトムアップ型のモノづくりを目指すべきだと述べました。「モノづくり」と聞くと、大企業によるトップダウン型の製造活動が想定されがちですが、実は、地産地消の製造活動などのボトムアップ型のモノづくりも同様に存在します。ニール氏は、1) 全米科学財団がファブラボに対して、どこの組織にも帰属しないような形で予算を設定したこと、2) ファブラボ・バルセロナで研修を行った際に、組織に属するのではなく個人でファブラボに関する活動を行った例を挙げて、日本でもボトムアップ型のモノづくりを行うよう提案しました。
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講演を受けて感じたこと
次に、今回のシンポジウムで行われた講演を受けて感じたことについて、各パネラーが意見を述べました。
田中氏は、これまでの製造業はIT業界やサービス業と違って参入が難しかったが、ITを始めとした様々な技術が進歩したことで、これまでモノづくりに関与できなかった人々がモノづくりに参入するチャンスが生まれたと語りました。また今後の課題として、ファブラボによるモノづくりと既存のモノづくりの違いを見極めていく必要があることを挙げました。
次に中村氏は、「ネットワーク」という単語をキーワードとして掲げ、3Dプリンターをインターネットに繋いだり、データ・ノウハウを共有するなど、以下にしてモノづくりの場でネットワークを活用していくかが重要と語りました。
荒川氏は、ファブラボは様々な製品の少量生産を低コストで行えるということで、環境にも優しいという点を挙げていましたが、途上国において持続的に展開していくのはまだ難しいこと、そしてインフラや経済面において試行錯誤が必要とも語りました。
最後にニール氏は、初めはMITや先端企業では高価な機器を使用し、ファブラボでは安価な機器を使用すると想定していましたが、実際にはファブラボの装置を多く使うようになったと語りました。また、MITでの取り組みをファブラボに持ち込むのではなく、逆にファブラボで行ったことがMITに導入されるようになったとも語りました。ファブラボによって技術のスケーリングを越えることができるとニール氏は語ります。
これらの発言を受けて、実行委員長の田中浩也氏は「私たちは20世紀的な思考の特徴を捨てきれていない」という発言を投げかけました。私たちは、製造業・サービス業、サービスそのもの・サービスの利活用など、色んな物に線引きをしてしまいがちですが、ファブラボでは線引きを行わず同時に様々な事を考える必要があります。また、従来は社会が成熟することは専門分化することであり、一人が得意なことを分担していく方が社会全体としては効率がいいと考えられてきましたが、目標自体を考えなおさなければいけない場合にはこのパラダイムは不適切であり、分断をリセットするべきとも語りました。草の根が政策になっていく過程がこれから行われていく中で、様々なものを分けないで上手く混ぜて融合していく国にしていきたいと熱く語っていました。
日本において/日本からファブラボについて何ができるか
パネルディスカッションの最後に、もう一度各パネラーから、日本において、そして日本からファブラボについて何ができるかという事について語られました。
田中氏は、ファブラボはこれまでモノづくりに参加できなかった人を参入させ、ネットワークを通じてアイデアをオープンにするという点で優れているが、既存の事業者の巻き込み方や、今あるモノづくりをどう変えられるのかというわかりやすいビジョンが必要であると述べました。
中村氏は、どのようにわかりやすい成功モデルを市民に提示できるかという点と、ファブラボを支えるための人材育成を重要な点として挙げました。
最後に荒川氏は、先進国と途上国の垣根がファブラボによって取り除かれるのではないか、またファブラボによって、農業→軽工業→重工業という従来の開発の流れが取り払われるのではないかと語りました。
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シンポジウムの紹介は以上になります。社会制度や人材不足など様々な課題はありますが、誰もが気軽にモノを作れる時代が確実に近づいているのがわかります。日本各地にあるFabLabは個人で利用することもできるので、興味がある方は是非実際にFabLabに足を運んでみてください!